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2019年バックナンバー

雑記帳

イギリス政局の混迷

 イギリス議会下院は、令和元年9月4日、欧州連合(EU)からの離脱延期を政府に求める法案を賛成多数で可決しました。
 
 ジョンソン首相は「どんな状況でも10月31日に離脱する」と反発し、国民の信を問う総選挙を提案しましたが、令和元年9月10日の2回目も、法案成立を優先したい野党の大半が解散動議に棄権し、必要な賛成を得られませんでした。
 
 イギリス議会は、令和元年10月14日まで閉会するということでしたが、イギリス最高裁判所が閉会は違法であるという判決により、開会しました。
 
 イギリス議会は、令和元年10月31日のEU離脱期限前の総選挙は事実上、不可能です。
 
 一体どうするんでしょうか。
 
 イギリスでは平成23年の議会任期固定法(FPA)により首相の議会解散権が制限されていて、解散には内閣不信任案の可決か、または下院議員の3分の2以上(出席議員の3分の2や、欠席・棄権を除いた有効票数の3分の2ではありません)の同意が必要と定められています。
 
 議会議決以外の首相による解散権行使という制度は廃止されました。 
 
 イギリスは、EU離脱の国民投票とか、内閣不信任案可決による以外の首相による解散を廃止するとか、どう考えても、誤った行動をとっています。
 
 なお、解散には内閣不信任案の可決か、または、下院議員の3分の2以上の同意が必要というのでは、今回のようなことが起きることは予想できたのではないでしょうか。
 
 本来は、最低限度、内閣信任案の否決を解散理由に入れるべきでした。
 
 野党は、総選挙をすれば負ける見込みなので、内閣不信任案を提出しません。
 首相が内閣信任案の動議を提出し、与党議員の大部分を欠席させれば、野党が信任の投票をするわけにいきませんから、内閣信任案の動議が否決され、解散総選挙ができたはずです。
 
 ただ、そんなことを許したのでは「八百長解散」ができることになると考えたのかも知れません。
 もっとも、保守党はイギリス下院の半数を割込んでいますから、「八百長」ではなくても、信任案は否決されたでしょう。
 
 日本でも、首相の解散権を制限しよう=内閣不信任案可決か、内閣信任案否決の場合に限って解散できるようにしようという、ごくごく一部の意見がありますが、賢明ではありません。
 
7条解散

 日本の解散には、「7条解散」と「69条解散」があります。
 
 憲法7条には天皇の国事行為を定めており、憲法3条に「内閣の助言と承認により」天皇が衆議院の解散を行うこととされています。
 
 憲法69条では「内閣不信任決議が可決されるか信任の決議案を否決したとき10日以内に衆議院を解散もしくは総辞職をしなければならない」と定められています。
 
 ただ、この場合にも、内閣の助言と承認により天皇が衆議院を解散することになります。
 
 かつてヨーロッパで元首である皇帝や国王に議会の解散権があり、憲法7条の規定は、それを承継しているといわれています。
 
 大日本帝国憲法は、国王の君主権の強力なプロイセン憲法を参考にして制定されたと言われています。
 
 プロイセン憲法は、国王が、貴族院と代議院の、一方議員あるいは両議院を解散することができるとされていました。
 大日本帝国憲法7条は「天皇ハ帝國議會ヲ召集シ其ノ開會閉會停會及衆議院ノ解散ヲ命ス」となっています。
 
  大日本国憲法は、天皇が内閣の輔弼(ほひつ)により、衆議院を解散できると定められていました。
 貴族院の解散はありませんでした。
 
 なお、内閣が解散を決めても天皇が衆議院を解散しなかったり、逆に、内閣に解散の意思がないのに、衆議院を解散した例は皆無です。
 
  プロイセン型の体裁を取りながら、その運用は元首がその権限を行使しないというイギリス型の運用がなされていたということになります。
 なお、戦前の大日本帝国下の解散は、内閣が決めていました。
 内閣不信任案可決か、内閣信任案否決の場合に限られないことはもちろんでした。
 
 現行憲法はGHQの手による憲法を日本語訳したものです。
 
 アメリカは、大統領制で、議会による大統領の不信任案決議もありませんし(弾劾は非行を前提とします)、大統領による議会の解散権もありません。
 
 アメリカのGHQが、内閣による国会解散について、どのように考えていたかはわかりません。
 
 もっとも、もともと知識があるはずもありませんから、衆議院と貴族院を、衆議院と貴族院にしたくらいで、他は、それほど興味があったかどうかは疑問です。
 日本の政治の継続性ということから、内閣不信任案可決か、内閣信任案否決の場合のみ、内閣が解散できるという解釈には無理がありそうです。
 
 ちなみに、最高裁判所は、いわゆる統治行為論を採用し、高度に政治性のある国家行為については法律上の判断が可能であっても裁判所の審査権の外にあり、その判断は政治部門や国民の判断に委ねられるとして、違憲審査をせずに、合憲とする高等裁判所の判決を支持し、上告を棄却しています。
 
 なお、解散を決めるのは内閣です。
 
 なぜ、解散は、総理大臣の専権事項といわれているのでしょうか。
 
 内閣総理大臣は閣僚の任免権があるため、全員一致が原則の閣議で解散に反対する閣僚を罷免し、自身が兼任することも可能です。現実に、小泉首相が郵政解散でやりました。
 
 こうしたことから、実質的に内閣総理大臣が解散権を有していると考えることもでき、それが「専権事項」と言われる理由となっています。
 
 議院内閣制を採用している日本では、衆議院の与党は内閣総理大臣の所属政党と変わりません。
 
 ですから議会と内閣が対立するケースはほとんどありません。
 
 戦後、4年の任期満了による総選挙は三木内閣の1回のみ、23回の衆議院解散のうち、不信任案可決による解散は4回、信任案否決による解散は0回、7条解散は、平成29年の解散を含め19回となります。
 
 衆院は4年任期ですが、実質的には2.6年任期です。
 
 先進諸外国(G7)はどうでしょう。
 
 アメリカに解散がないことは記述の通りです。
 
 イギリスも前記の通りです。
 
 ドイツは、基本法(憲法)の定めにより、内閣信任案が否決された場合のみ連邦大統領により解散ができます。
 内閣不信任案可決では解散されません。建設的内閣不信任案と言って、連邦議会の過半数の同意を得た連邦首相候補者を明示しないと不信任案は提出できず、建設的内閣不信任案が成立すると、不信任案に示された連邦首相候補者が自動的に連邦首相になり、不信任案可決とともに地位を失った前連邦首相に、解散権など最初からないのです。

 フランスは、共和国大統領が、フランスの首相及び両議院議長の意見を聴いた後、国民議会 (下院)を解散できます。
 
 イタリアは、上院下院ともに、議員の任期は5年で、解散の対象となります。
 大統領は、両議院の議長の意見を聴き、両議院又は一議院を解散することができます。大統領は、議長の意見には拘束されません。
 
 カナダは、下院については首相の助言のもとでカナダ総督がいつでも解散することができます。上院の解散はありません。
  昔ながらのイギリスの制度で、日本と一番よく似ています。
 
  解散が、内閣不信任案可決か、内閣信任案否決の場合に限られるという国は1つもありませんね。
 
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