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2018年バックナンバー

雑記帳

北朝鮮の核武装を望む韓国

 平成30年9月6日付・プレジデントオンライン・鈴置高史
 

---引用開始---

 

 文在寅(ムン・ジェイン)政権の挙動が怪しくなるばかりだ。

 

大国の横暴には「民族の核」で

 

――前回は、韓国は「北朝鮮の核の傘」に入るつもりだ、とのくだりで終わりました。

 

鈴置:それを明確に書いた韓国人がいます。朝鮮日報の池海範記者です。同社の東北アジア研究所所長でもあります。記事「『北朝鮮の核は民族の資産』という幻想」(8月8日、韓国語版)の書き出しを訳します。

 

• 最近、ある小さな集まりで左派陣営の人がこう語った。「統一後を考えれば北朝鮮の完全な非核化よりは一部の核を残した方がずっとよい。我が民族が強大国の横暴を牽制するのには、核を持つことが格段に有利だ」。
• 彼は「南の経済力と北の核を合わせば世の中に怖いものはない。我々の世代がこの偉業を成し遂げようではないか」とも語った。
•南北が平和共存に向け協力する時代に入ることで、北の核は南北共同、すなわち民族の資産になるとの論理だ。だから北朝鮮の非核化にこだわり過ぎず、大きな枠組みで交流・協力を強化せねばならぬということだ。彼の言葉に対し、同席した何人かが首を縦に振った。

 

――ついに韓国人が本音を語り始めましたね。

 

鈴置:池海範記者も韓国人が北の核で自らを守りたいと考えるのは、ある意味で当たり前と書いています。記事はこう続きます。

 

• 「南の経済力と北の核を結合する」との発想はかなり魅力的である。一部の知識層にこれを期待する雰囲気もあるようだ。外国からの侵略と亡国の歴史を持つ韓国人が、強く豊かな統一国家を夢見るのは極めて当然のことだ。

 

 さらに池海範記者は、文在寅政権もそう考えているであろうと指摘し、批判しました。

 

• しかし万が一にも青瓦台(大統領府)のいわゆる「自主派」補佐陣までこんな夢を見ているとすれば、非常に危険なことである。
•「北の核は民族の核」との論理を作り、宣伝してきた主役は平壌(ピョンャン)政権だ。1月25日、北朝鮮の統一戦線部が発表した「国内外の全ての朝鮮民族に送るアピール」はこう主張した。
•「我が民族が握った核の宝剣は米国の核戦争の挑発策動を制圧し、全ての朝鮮民族の運命と千万年の未来を固く担保してくれる。民族の核、正義の核の宝剣を北南関係の障害物と罵倒するあらゆる詭弁とたくらみを断固として粉砕しよう」。

 

 池海範記者は「万が一にも」と書いていますが、韓国保守の間では「万が一」どころか「青瓦台は北朝鮮の別働隊。青瓦台こそが『民族の核』を夢見ている」と考える人が多い。

 

 保守系紙の朝鮮日報は政権から目を付けられています。はっきりと書けば「どこに証拠がある」と訴えられかねないので「万が一にも」との表現を使ったのでしょう。

 

――「自主派」とは?

 

鈴置:米韓同盟を蛇蝎のごとく忌み嫌い、北朝鮮との連携を主張する人々――左派民族主義者のことです。韓国の保守は「従北派」と呼んでいます。実際、青瓦台の補佐官はそんな人たちで占められているのです。

 

 朝鮮日報が「『運動家の青瓦台』…秘書官クラス以上の36%が学生運動・市民団体の出身」(8月8日、韓国語版)で具体的なデータを報じています。

 

• 青瓦台の秘書室と政策室、安保室の秘書官クラス以上の参謀陣のうち、全国大学生代表者協議会や各大学の総学生会長ら、学生運動出身者と各種市民団体の出身者は全64人中、23人(36%)だ。
• 任鍾晳秘書室長が所管する秘書室に限れば、それは全体の61%(19人)に達する。

 

 そして、文在寅政権は口では「北朝鮮の非核化」を唱えますが、やっていることは正反対。2017年4-10月に政府系の韓国電力の子会社が北朝鮮の石炭を購入していたことが最近、明らかになりました。

 

 もちろん国連制裁を破る行為です。韓国政府は輸入仲介業者を書類送検しましたが、最大野党の自由韓国党は「政府は、石炭は北朝鮮産と知りながら放置していた疑いがある」と批判しました。

 

 韓国政府自身も2018年6-7月、南北連絡事務所の開設を名分に、北朝鮮に石油製品80トンを引き渡しています。中央日報の「安保理禁輸品目の石油・軽油80トン…韓国政府、北朝鮮に搬出していた」(8月22日、日本語版)で読めます。

 

――「韓国政府は北朝鮮の別働隊」と言われても文句は言えませんね。

 

鈴置:文在寅政権が本気で非核化を目指すなら、外貨や石油不足に陥った北朝鮮を助けはしないはずです。米朝首脳会談の後、米国は軍事的な圧力を緩めました。北朝鮮を非核化に誘導するには経済的な圧力――制裁頼みになっているのです。

 

 米国も韓国の左派政権が北の核武装に協力しかねないと疑っていますから牽制しました。米政府の本音を語るVOAは「米専門家『北の石炭に信用状を発給した銀行への米国の制裁は法的に問題なし』」(8月15日、韓国語版)などを掲載し、韓国の金融機関への制裁をちらつかせました

 

 国務省のナウアート(Heather Nauert)報道官は8月23日の会見で、南北連絡事務所に関し聞かれ「少し前に文大統領は『北朝鮮の核問題の解決なしに南北関係は進展しないというのが自分の意見であり立場だ』と語った」と指摘しました。

 

• I think I’d go back to something that President Moon had said not too long ago, and that is his opinion and his stance that the improvement of relations between the North and South can’t advance separately from resolving North Korea’s nuclear program.

 

 さらに「北朝鮮への石油製品の供給は制裁違反ではないか」との質問に対し「我々は全てを注意深く見守る」(We would take a look at all of that.)と述べました。

 

「今度やったら承知しないぞ」と韓国に警告したのです。韓国はまだ、形式的には米国の同盟国。国務省は、公式発言はこの程度の表現に留めたと思われます。

 

―池海範記者の記事はこうした警告を受けて書かれたのですか?

 

鈴置:これらの警告前に載りましたが、韓国の傍若無人の振る舞いに米政府が怒り出すことは目に見えていた。そこで「民族の核に幻想を持つな」と韓国人に訴えたのでしょう。

 

――どういう論理で訴えたのですか?

 

鈴置:池海範記者は「北の核を南が共有できる保証はない」と説明したのです。

 

• 南北関係が雪解けしたからといって金正恩が核の統制権や情報を韓国と共有するわけがない。北朝鮮の核が決して民族の核にはならない理由だ。

 

 さらに「民族の核」に希望を託せば対北制裁が甘くなり、北の核武装を助けてしまう、と強調したのです。

 

• 「民族の核」との宣伝は「北に対する強力な非核化圧力はかけるな」と言っているに等しい。北朝鮮が「部分的な非核化」あるいは「偽装非核化」により国際社会を欺く可能性があるというのに、対北制裁を解除し、信頼を培うことこそが平和構築に役立つとの理屈である。
• 文在寅政権はすでに、非核化の検証よりも制裁解除と軍事対決の解消により積極的だ。

 

普通の人も「北の核」頼みに

 

――韓国人はこの記事に説得されたでしょうか。

 

鈴置:人によると思います。米国との同盟を重視する保守派は「その通りだ。従北左派の語る『民族の核』などに騙されるな!」と考えたでしょう。この記事への読者の書き込みの多くも、そうしたトーンでした。

 

 一方、北朝鮮との協調を唱える左の民族派は「北の核こそが民族を守る核だ」と言い続けるでしょう。彼らは確信犯です。もともと米国を誤魔化し、北の核武装を幇助するつもりなのですから。

 

 要は米国の核か、北朝鮮の核か、どちらを頼るかの論争が韓国で始まったのです。北朝鮮の核武装は左右の陣営の色分けをより鮮明にしたわけです。

 

――保守でも左派でもない「普通の人々」はどう考えるでしょう。

 

鈴置:池海範記者の記事は――現実が普通の人々を「北の核の容認」に押しやっていく可能性が大きい。この記事は米国がいずれ米韓同盟を放棄すると示唆しました。それが逆効果になりかねない。その部分を要約しつつ翻訳します。

 

• 金正恩が核・ミサイル施設の爆破や解体などの「非核化ショー」を通じ、トランプ(Donald Trump)の11月の中間選挙を助けたら、米国は終戦宣言と平和協定の締結に応じる可能性がある。平和協定はすぐさま米軍撤収をもたらす。

 

「核の傘」を失う韓国

 

――なぜ、逆効果になるのでしょうか。

 

鈴置:「平和協定はすぐさま米軍撤収をもたらす」と記事にありますが、在韓米軍の撤収は米韓同盟の空洞化をもたらします。この記事は米国が韓国を見捨てる可能性が高まったことも韓国人に思い出させてしまったのです。

 

 池海範記者は、北朝鮮が非核化したとしても「部分的な非核化」あるいは「偽装非核化」に留まるとも予想しました。この2つが現実になると韓国の安全保障は最も危険な状況に陥ります。

 

 なぜなら北朝鮮は何らかの形で核を持ち続けるというのに、建前では「朝鮮半島は非核化した」ことになって韓国は米国の核の傘を失うからです。

 

 韓国は北の核の前で「丸裸」になってしまいます。「表・北朝鮮の非核化の行方」で言えば、表面的にはシナリオⅢだが、実質的にはシナリオⅣになる展開です。

 

北朝鮮の非核化の行方

 

――すると、どうなるのでしょうか。

 

鈴置:北朝鮮が「我々に逆らったら核攻撃するぞ」と韓国を脅すのは確実です。韓国の左派はそれに呼応し「北の核に頼ればいいではないか」と言い出すでしょう。

 

 保守派も普通の人の中からも「北から核で脅されるよりは、北の核に守ってもらう方がまだまし」と考える人が出てきます。

 

 結果、韓国では北朝鮮とスクラムを組める左派が政権を握り続け、韓国人はおカネを北朝鮮に送る見返りに核で保護してもらう境遇に陥ります。

 

 池海範記者の記事は、保守派や普通の人にとっての「暗澹たる未来」を意図せずして言い当ててしまったのです。記事の結論が以下です。

 

• (このままでは)韓国が北の核に屈従する世の中が到来する。5000万人の韓国民は現在の北の住民と同じく、金正恩の暴圧体制に一言も言えずに頭だけ垂れることになる。そんな世の中を望むのか?

 

 この記事を読んだ人はこんな未来だけは避けたいと考えたでしょう。しかし同時に、かなりの人が「ただ、北の核に反対しようがしまいが、米国に見捨てられるのだから、どうしようもない」と絶望したでしょう。

 

 そんな人は体を張ってまで北の核武装を止めようとは思わない。だからこの記事は逆効果なのです。

 

2020年には韓国も核武装可能

 

――韓国は自前の核武装の準備を進めてきたはずです。

 

鈴置:韓国の保守政権は北が核武装した瞬間、あるいは米国から見捨てられた瞬間に、核武装を宣言できるよう着々と準備してきました(「韓国が目論む『2020年の核武装宣言』」参照)。

 

 核弾頭は韓国の技術力があれば早くて半年、遅くとも数年で開発できる。課題は核弾頭の運搬手段です。地上や地中のミサイルだと先制攻撃により撃破される可能性が高い。

 

 そこで韓国は、弾道ミサイルを発射する垂直発射筒を備えた潜水艦の開発・建造に取り組んできました。2020年から配備が始まり、毎年1隻ずつ増やしていく計画です。潜水艦から発射する弾道ミサイルも2020年には実戦配備の予定です。

 

 もっとも保守が政権を奪い返したとしても、核武装は政治的に難しくなりそうです。形式的とはいえ北の非核化に進んでいる時に、韓国が核武装を宣言するのは極めて難しいからです。

 

――北朝鮮と良好な関係の左派政権が続くのなら、北に

対抗するためのミサイル潜水艦は不要になりますね。

鈴置:いえ、左派政権もミサイル潜水艦の建造は続けるでしょう。北朝鮮も核ミサイル潜水艦を持とうとしていますが、技術的にも資金的にも難しい。そこで北が弾頭を製造し、南がミサイル潜水艦を建造するという分業体制に進むと思われます。

 

 池海範記者は「金正恩が核の統制権や情報を韓国と共有するわけがない」と書きました。しかし、核弾頭と並んで重要なミサイル潜水艦を南が提供すると言えば、北も応じるでしょう。

 

原潜保有にも動く

 

――まさに「北の核と南の経済力の結合」ですね。

 

鈴置:文在寅政権は原子力推進の潜水艦の保有にも動いています。原潜は通常型動力の潜水艦と比べ長時間、潜航できますから核ミサイルのプラットフォームとしてはより有効です。

 

 2017年8月8日、中央日報が「韓米首脳が電話会談、文大統領が韓国原子力潜水艦に言及」(日本語版)で「文在寅大統領が7日、トランプ米大統領との電話会談で、就任後初めて原子力潜水艦問題に言及した」と報じています。

 

 同紙は電話会談の内容に関し、それ以上は触れませんでした。が「大統領は大統領候補当時の2017年4月、放送記者クラブ討論会で『原子力潜水艦が我々にも必要な時代になった』と話していた」と付け加えています。 

 

――なぜ、米韓電話協議で原潜に言及したのでしょうか。

 

鈴置:韓国は米国製の原潜を購入するか、リースするつもりだからです。米国では常識です。ナショナル・インタレスト(the National Interest)の「South Korea Is about to make a $7 Billion Nuclear Submarine Blunder」(2017年9月30日)などはそれも前提に書いています。

 

 北朝鮮の核武装を助け「民族の核」を持とうとする韓国に、米国が原潜を売るとは思えませんが。

 

食い逃げ恐れる米国

 

――米朝関係が微妙になってきました。

 

鈴置:8月23日にポンペオ(Mike Pompeo)国務長官の訪朝計画が発表されました。しかし翌24日、トランプ大統領がその中止を指示しました。訪朝しても金正恩委員長と会えないのなら、非核化で進展は望めないと判断したのでしょう。

 

 北朝鮮は非核化の前に朝鮮戦争の終戦宣言を出すよう要求し始めています。終戦宣言は平和協定の呼び水になりますし、さらには米韓同盟の廃棄につながります。

 

 文在寅政権までが北朝鮮と声をそろえ「朝鮮半島に平和が戻った以上、在韓米軍は不要」と言い出すからです。

 

 トランプ政権も米韓同盟の存続にこだわってはいません。ただ、同盟廃棄は北の核の廃棄と交換したい。非核化の前に終戦宣言すれば貴重な交渉カードである「同盟廃棄」を食い逃げされてしまいます。
 

当面は「中国叩き」に全力

 

――結局、米朝は……。

 

鈴置:当面、大きくは動かないと思います。米国が「中国叩き」に全力をあげているからです。トランプ政権は北朝鮮の後ろ盾である中国を押しつぶせば、北は非核化に動かざるをえないと見ています。

 

 8月29日、トランプ大統領自身がツイッターで「北が非核化しないのは、米国と対立する中国が後ろで糸を引いているからだ」と語っています。

 

• President Donald J. Trump feels strongly that North Korea is under tremendous pressure from China because of our major trade disputes with the Chinese Government. At the same time, we also know that China is providing North Korea with...

 

 北朝鮮に対し「待ってろ。今、お前の親分を叩き潰すからな。そうなっても減らず口を叩けると思っているのか」と脅したのも同然です。

 

 強打者が打席に立った時、投手は打者に集中します。1塁ランナー――北朝鮮がちょろちょろすれば、牽制球も投げるでしょうが、あくまで米国の勝負の相手は強打者の中国なのです。

 

――韓国のポジションは?

 

鈴置:ファーストです。ただ、この1塁手は敵チーム側に回りました。米国の牽制球をわざと取りそこね、北朝鮮を2塁に送ろうとしています。

 

---引用終了---

 

 韓国が味方だと思ってはいけません。
 現政権下では、すでに、中国やロシア側にいると思って間違いありません。

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