本文へ移動

2021年2022年バックナンバー

雑記帳

新型コロナウイルス感染症の後遺症

 法律家が「後遺症」という場合、例えば、交通事故で傷害を負った後、治療によって症状が改善していったものの、これ以上治療しても症状が改善しないものと診断されたときに残存した障害のことを言います。

 片手がすべてなくなったとか、足指の何本かがなくなったとか、軽いものでは、歯が何本なくなって補綴を加えたとかの場合は、治療をしても症状が改善しませんから、傷害を負った時点で(あるいは緊急手術を終えた時点で)、後遺障害は確定します。

 これに対し、手足の関節の可動域が限定されるとか、むち打ち症による神経症状などは、治療やリハビリにより改善の可能性がありますが、治療をしても症状が改善しないと医師が判断した時点において、後遺障害は確定します。

 基本的に、これ以上治療を続けても、症状が改善しないと医師が判断して、治療を打ち切ったときに、後遺症が確定します。
 
 新型コロナウイルス感染症の「後遺症」とよく聞きます。

新型コロナウイルス感染症にかかった後、感染性がなくなったにもかかわらず、療養中にみられた症状が続いたり、新たに症状が出現したりするなど、様々な症状がみられる場合を指すようです。
 「倦怠感」「関節痛」「筋肉痛」などの全身症状、「咳」「喀痰」「息切れ」「胸痛」などの呼吸器症状、「記憶障害」「集中力低下」「不眠」「頭痛」「抑うつ」などの精神・神経症状、「嗅覚障害」「味覚障害」「動悸」「下痢」「腹痛」など、その他の症状です。

 法律家が「新型コロナウイルス感染症」の「後遺症」と聞いた場合、治療をしても改善されないという場合でもないのに、なぜ「後遺症」と呼ばれるのか不思議に思うことがあります。
 医師が、これ以上の治療をしても症状が改善しないと診断したわけではないからです。

 「新型コロナウイルス感染症の罹患後症状」というのが正確な用語のようです。

 罹患後症状については、世界的に調査研究が進められている最中であり、まだ不明な点が多いのですが、国内の調査研究(厚生労働科学研究)によりますると、診断後6ヶ月の時点で約 8割の患者は罹患前の健康状態に戻ったと自覚したと報告されています。

 法律家のいう「後遺症」ではないことになります。

 なお、世界保健機関(WHO)は、令和4年6月時点の知見として、新型コロナウイルス感染症に罹患したほとんどの患者は、完全に罹患前の状態に戻るものの、一部の患者は、長期的心身への影響が残ることがあると報告しています。

 新型コロナウイルス感染症は、現在進行形の病気ですし、発生してから2年半しか経過していませんから、法律家のいう「後遺症」が残存するかどうかはわかりません。

 ただ、新型コロナウイルスにより、間質性肺炎や肺線維症に罹患した場合は、不可逆的であるという指摘があり、この場合、法律家のいう「後遺症」に該当します。
TOPへ戻る