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雑記帳

関西電力の旧経営陣に対する19億円の損害賠償

 関西電力は、令和2年6月に、旧経営陣に約19億3000万円の損害賠償を求める民事訴訟を提起しました。

 報道などによりますと、平成31年1月、金沢国税局の税務調査として、原発工事を担当した土木建築会社への強制調査が行われました。
 この強制調査により、「土木建築会社から福井県高浜町の元助役に約3億円が流出し、そのうちの一部が関西電力の役員に渡っていたことが明らかにされているとのことです。

 取締役は会社に対し「善良な管理者の注意」で職務を遂行する義務(善管注意義務)があるとし、違反した場合は会社に賠償する責任が生じると会社法で規定されています。

 社外の弁護士からなる取締役責任調査委員会は、岩根前社長ら5人の善管注意義務違反を認定しました。
 最大の争点は、福井県高浜町の元助役、森山栄治氏(死去)からの金品受領問題にどう対応すべきだったかです。
 調査委が認定したのは、金品受領を取締役会に報告しなかったり、金品の返還や受け取りを拒否しなかったりしたことです。
 「問題が発覚すれば、関電の信用が失墜する可能性を認識すべきだった」と批判しています。
 これに対し、旧経営陣の一部は調査委のヒアリングに「原子力発電所の稼働を妨げる行動に出るリスクにつながり、当時の状況に照らしてやむを得ない判断だった」などと主張しています。

 旧経営陣は取締役としての注意義務違反の有無を争うとみられ、法廷の場で新旧経営陣が対峙する構図となる公算が大きいといえます。

 過去、会社に損害を与えた取締役らの責任を認めた司法判断は少なくありません。

 参考になるのが、平成20年に最高裁判所で確定したダスキンの株主代表訴訟です。
 無認可の添加物が混入した肉まんを販売した担当取締役に加え、他の役員の責任も認定しました。
 「『積極的に公表しない』という方針は消極的な隠ぺいで、経営判断とは言えない」として注意義務違反を認めました。

 取締役の責任を厳しく問う司法判断は少なくありません。
 旧大和銀行ニューヨーク支店の巨額損失を巡る訴訟では7億7500万ドル(当時のレートで約830億円)、オリンパスの粉飾決算事件では594億円など巨額の賠償命令が出ています。
 コンプライアンス(法令順守)を企業に強く迫る背景には、株主や社会からの企業への視線が厳しくなっています。

 なお、関西電力は、令和4年8月18日、同社元役員らが福井県高浜町の元助役らから金品を受領していたことにより、米国の法人などから約239億円の損害賠償を求める訴訟を大阪地方裁判所に提起されたことを公表しました。

 原告はアメリカの法人などを含む82人となっていて、令和4年8月17日に関西電力へ訴状が届いています。
 今回の訴訟は株主が株価下落による損失を請求する「証券訴訟」に該当し、金品受領問題に関する情報を有報などに必要な内容を記載しなかったことで損失を被ったことが訴訟の理由とされています。
 証券訴訟とは、有価証券報告書等の虚偽記載が原因で株価の下落が見られた場合に、株主が提起することができる損害賠償請求訴訟のひとつです。
 アメリカ法人などは、金品受領問題に関する必要情報を記載しなかったため、株価の下落による損失を被ったとし、この証券訴訟を提起したことになります。

 裁判は、大阪地方裁判所第4民事部(商事部)で審理されていますが、その煽りをくってか、第4民事部の審理は渋滞気味です。
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