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2021年2022年バックナンバー

雑記帳

平均

 契機となった金融庁審議会の報告書により、老後2000万円問題がクローズアップされました。

 仕事に就かず、年金のみで生活する60歳以上の高齢夫婦の世帯では、月5万円ほど貯蓄を取崩していて、それを前提とすれば、夫婦が20年暮らすには約1300万円、30年暮らすには約2000万円の貯蓄がないと行き詰まるとの内容でした。

 他方、60歳以上の高齢者世帯の平均貯蓄額は2484万円なので、一見、足りているように見えます。

 なぜ、大きな問題になったのでしょう。

 2000万円も貯金がないよ!という世帯の人が多かったということですね。

 60歳以上の高齢者世帯の「平均」貯蓄額は2484万円ということから、2000万円をこえる貯蓄額がある世帯がざっと6割くらい、2000万円以下の貯蓄額しかない世帯がざっと4割くらいと思いがちですね。

 ただ、現実には、2000万円をこえる貯蓄額がある世帯がざっと3分の1くらい、2000万円以下の貯蓄額しかない世帯がざっと3分の2くらいだそうです。

 50人の集団の身長の平均なら、1人長身者が加わったからといって、全体の身長を押上げるほどではありません。
 身長の平均が170センチで、1人2メートルの大男が加わっても、平均はあまりかわりません。

 しかし、50人の集団の世帯貯蓄額の平均なら、1人富裕者がいたら、全体の貯蓄額を押上げます。
 世帯貯蓄額の平均が2000万円で、1人100億円の資産家が加わると、平均が倍になってしまいます。

 資産や所得といった格差が大きい話をするとき、平均値を使うと誤解を招きやすくなります。

 身長や体重などの平均値というと、それより多い人と、それより少ない人が同じぐらいいると受け止められがちです。

 資産は違います。
 とんでもない資産家が、平均を大きく引上げます。
 とんでもない資産家がいなくても、高齢者では長年の積み重ねの結果、資産の多い人と少ない人の格差が大きいというのが普通です。

 資産の場合、平均を使うと、一般の人の予想と異なることが多いです。
 平成30年の世帯貯蓄額の平均は、かなり減って1752万円あったそうです。
 そんなに、ありませんよね。

平均のマジック

 平均値という言葉をよく見ます。
 代表値の1つで、代表値は、「平均値」(mean)、「中央値」(medium)、「最頻値」(mode)があります。
 「平均値」は、全ての観測値の総合計を、観測地の総個数で割ったものです。
 「中央値」は、測定値を大きさ順に並べたとき、ちょうど中央に位置する値です。
 「最頻値」は、最も度数の多い測定値のことです。
 一般的には、「平均値」ではなく、「中央値」や「最頻値」が実感に近いことがあります。
 勤労者世帯の平成28年の世帯平均貯蓄額は1820万円です。
 「えっ!そんなにあるの?」と思う人は多いはずです。
 通常、平均といえば、身長や体重を思い浮かべます。
 身長や体重は、「正規分布」という「つり鐘型」の分布をしますから、「平均値」は、「中央値」であり、また、「最頻値」であることが多いのです。
 貯蓄は違います。
 少ない人は「0」です。これ以下にはなりません。
 多い人に「きり」はありません。
 高額の貯蓄がある世帯ほど、全体に占める割合が低くなっていますね。
 何億、何十億、何百億という貯蓄がある人もいるでしょう。
 少数の大金持ちが全体の平均値を押上げているため、実感より、かなり高めの平均値になります。
 このようなデータ分布の場合は、いわゆる平均値ではなく、「中央値」や「最頻値」で見るべきでしょう。
 年収の多い世帯から少ない世帯に並べた場合、あるいは、年収の少ない世帯から多い世帯に並べた場合、ちょうど「真ん中」の世帯の預金額は、だいたい1064万円くらいです。
 なお、「最頻値」は「0円以上200万円以下」ということです。
 多いですね。

 私たち弁護士がよく見る破産者はここに該当します。ただ、預金は、わずかにありますが、200万円はないでしょう。あまり多いと(現金99万円)、破産廃止にあたり、按分弁済をさせられます。
 つまり「借金世帯」も「0円以上200万円以下」に含まれています。
 必要以上に落ち込む必要もありませんが、必要以上に勇気づけられるというものではありません。

平均値

 平均値とは何でしょう。

 全体を代表する値という指標はいくつかあります。
 全部の数字を足して、全体の数で割った結果が平均値(算術平均)です。

 通常は「全体を代表する値」として「平均値」を用いることが多いです。
 身長などは、平均値を用いるのが普通です。
 分布が正規分布なら、問題はありません。

 しかし、「全体を代表する値」として「平均値」を用いることが不適切、あるいは、誤解をうむ可能性がある場合は、別の「全体を代表する値」を使います。

 よくいわれるのが「所得」です。
 一部の超富裕層が平均年収をつり上げてしまっているため、平均年収は「普通の人」の年収よりもずっと高い値になってしまうことがあります。

 このため、平均年収は「普通の人」の生活水準を推し測るには向きません。
 分布が正規分布ではないからです。
 このような場合用いられる「全体を代表する値」として用いられるのは「中央値」(メディアン。median)です。
 有限個のデータを昇順あるいは降順などの順番に並べて、ちょうど真ん中の人の値を「中央値」といいます。データが偶数個の場合は、中央に近い2つの値の算術平均をとります。

 年収を例にすれば、年収が低い順に国民を並べたときに丁度真ん中になる人の年収を表しているため、一部の超富裕層の年収は中央値に影響せず、中央値は「普通の人」の生活水準により近くなります。

 他に、「平均値」では誤解をうむ例があります。
 多少古くなりますが、厚生労働省が発表した、平成19年における国民生活基礎調査の概況によりますと、全世帯における1世帯平均貯蓄額は1143万円です。

 通常は「こんなに高いの?」と思われるでしょう。
 一部の超富裕層が「平均」を押上げています。また、引退した高齢者層に貯蓄額が多いことも一因です。

 この場合は、「中央値」を用いればよいのですが、調査概況の中に、「中央値」という記載は見あたりません。
 なお、「全体を代表する値」として、「最頻値」といって、最も分布が多い値を示すこともあります。

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