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2021年2022年バックナンバー

雑記帳

建設的内閣不信任案

 議院内閣制の国において、首相の不信任案を提出するとき、単に「不信任」動議でいいのか、「次期首相を定めての不信任案」動議でなければならないのか、国によって異なっています。

 日本は、単に「不信任」動議で十分です。ほとんど、すべての国で採用されています。

 日本の場合、単なる内閣「不信任」が可決され、内閣総辞職あるいは総選挙いずれであっても、記名投票による内閣総理大臣指名の議決を行ない、有効投票総数の過半数の票を得た議員がその議院における被指名者となり、1回目の投票で有効投票総数の過半数の票を得た議員がいない場合は、上位2人による決選投票により決することになっていますから、内閣総理大臣が選出されないことはありえません。

 ただ、1回目の投票で有効投票総数の過半数の票を得た議員がおらず、決選投票となったときは、連立政権を組むか、少数与党での政権運営となります。

 衆議院が優越しますから、衆議院の選出した人(両院協議会での調整の余地もないではありません)が内閣総理大臣となります。

 なお、「次期首相を定めての不信任案」動議でなければならない国があります。
 ドイツ連邦共和国です。
 ドイツ連邦共和国の基本法(憲法に該当)には、以下のとおり定められています。

第67条 [建設的不信任決議]
(1) 連邦議会は、その議員の過半数をもって連邦首相の後任者を選出し、連邦大統領に連邦宰相を罷免すべきことを要求することによってのみ、連邦首相に対する不信任の決議をすることができる。連邦大統領は、この決議にしたがい、選出された者を任命しなければならない。

 ドイツ連邦共和国は二院制ですが、連邦参議院は、州代表という性格で、州首相などが議員になり、連邦首相の選出権限はありません。

 ドイツ連邦共和国では、単なる「不信任」動議は提出できません。
 連邦議会議員の過半数が支持する次期連邦首相を選ばないと、不信任案動議が提出できませんから、次期連邦首相は、必ず、連邦議会議員の過半数の支持のもとに出発します。

 次期連邦首相が選任できなければ「現状維持」です。

 内閣不信任案が議決された際、連邦首相は、連邦議会を解散できません。
 内閣不信任案が可決と同時に、新しい連邦首相が決まり、解散権が失われます。
 内閣不信任案が出たから、連邦首相が連邦議会解散に打って出る(解散権は連邦大統領にあります)という選択肢はなく(日本のように、天皇への内閣の助言と承認があれば、いつでも解散ができるということになっていません)、あきらめて連邦首相の座をおりるしかありません。
 私が、ドイツに留学していたとき、シュミット連邦首相が、コール議員を連邦首相候補とする建設的不信任案の議決により、連邦首相の座を降り、コール議員が連邦首相になりました。
 連立組替えによるもので、失政やスキャンダルではありません。

  ワイマール共和政時代に倒閣だけを目的とした内閣不信任が何度も可決された結果、政治が安定せず、その混乱を衝く形でナチスが台頭してしまったことへの反省によるものといわれています。

 もとより、日本とドイツでは憲法の制度が違います。

 ただ、議院内閣制で、単なる内閣不信任案を出していたのでは、ヒトラーのような独裁者がでかねないことも事実です。

 繰返しますが、次の首相を誰にしてほしいかどうかを考えることなく、ともかく、現在の首相に辞任を求めるというのは危険な感じがします。
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