本文へ移動

2021年2022年バックナンバー

雑記帳

河井元法務大臣実刑、検察の「手段を選ばず」問われず

 令和3年6月18日、東京地方裁判所は、令和元年の参院選広島選挙区をめぐる買収事件で、自民党の衆院議員だった元法務大臣の河井克行被告人に、懲役3年の実刑判決が言渡しました。

 東京地裁は河井元法務大臣が、妻の案里元参院議員を当選させるため地元・広島の首長や県議ら100人に計約2900万円の現金を配ったと認定しました。

 この事件は、捜査から一審の判決まで、疑問符がついたまま推移しています。

 令和3年6月18日、東京地方検察庁は、地方議員や首長ら44人、後援会関係者50人、選挙スタッフ6人が案里元議員の票をとりまとめる趣旨で現金(5万円から300万円)を受け取った地方議員や首長ら44人、後援会関係者50人、選挙スタッフ6人全員を不起訴としました。

 買収罪は、金品を渡した側と受け取った側の双方が存在して成立ちます。
 賄賂を渡し、受取る贈収賄と同じで、単独犯はあり得ません。

 検察官は受け取った金品の額や立場、渡された状況などを総合的に判断しますが、買収された側も刑事責任を問うのが通例です。

 今回は被買収の側に公職にあった人物が数多くいます。
 金額も最高で300万円と高額です。
 強引に渡されたなどの事情は、受取っている以上、最初から問題にならず、1人も刑事処分をしないまま裁判を迎えた検察の対応は極めて不自然です。
 また、収賄側の有罪確定後、贈賄側を全員不起訴処分としました。

 司法取引の結果であれば、理解はできます。

 しかし、日本版の司法取引は、公職選挙法を制度の対象としていません。
 他人の犯罪を明かす見返りに、自分の罪を見逃してもらうという形の捜査や裁判に社会一般のなじみが薄かったことから、日本版司法取引は国民の「納得感」が得られやすいよう罪種を限定して法定されました。

 司法取引の対象となったのは経済犯罪や組織犯罪です。
 不正な経理処理を命じられた社員から供述を得て、粉飾を計画した経営トップを罰する場合とか、振込め詐欺で電話をかけていた末端は処罰せず、首謀者の暴力団幹部をあぶり出すといった場合に限られ、選挙違反などは対象から外れています。

 なお、日本版司法取引の導入の是非をめぐって、法制審議会では激しい議論が繰り広げられた。この中で当時の最高裁刑事局は「司法取引をした証人が出てきた場合には、最初からある種の疑問符というか、留保を持って証言を聞く」と、疑念を呈しています。

 裁判所の判断も、「著しく均衡を欠く」とする弁護側の訴えを、判決は「訴追裁量権を逸脱するとはいえない」などと完全に退けました。
 公訴棄却(「控訴棄却」ではありません)まですべきだとは思いませんが、不公正であるとの指摘くらいはすべきであったでしょう。

 目的を達成するためであれば、手段を選ばなくても構わないというのは、刑事裁判でもおかしいと思います。

 いずれにしても、検察審査会が、「起訴相当」と判断するかとは思います。
TOPへ戻る