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2021年2022年バックナンバー

雑記帳

「SIMロック原則禁止」が業界に与える影響

 日本では、特定の通信会社のSIMを挿入したときしか通信ができないよう、端末にロックをかける「SIMロック」が一般的でした。

 総務省は、令和3年5月28日に公開された同タスクフォースの報告書で、SIMロックは購入者の利便性を損ない、他社への乗り換え、ひいては事業者間競争を阻害する効果を有するとして、キャリアがSIMロックをかけることを原則禁止することが適当と結論付けました。

 SIMロックは、ユーザーから見た場合、他社のSIMを挿入しても利用できず、キャリアを変える度に端末を変える必要が出てくることから不便な存在であることは確かです。

 携帯各社はかつて、スマートフォンなどの端末価格を実質0円、1円といった非常に安価な価格で販売して新規契約者を獲得し、毎月の通信料金からその割引分を回収するというビジネスモデルを展開していました。

 そのため、契約してすぐ解約されてしまうと値引き分の原資が回収できなくなってしまううえ、割賦を組んで購入した端末の場合、その支払いまでもが踏み倒されてしまうリスクもあり、SIMロックをかけて他社のSIMで利用できないようにすることにより、リスクを回避していました。

 しかし、利用者が、あるキャリアから他のキャリアに自由に契約が変えられなければ、競争を阻害すること、また、競争が阻害されることにより、利用料金が高止まりすることも事実です。

 SIMロック原則禁止を定めた「移動端末設備の円滑な流通・利用の確保に関するガイドライン」の適用は令和3年10月1日からとされています。
 令和3年10月1日以降に販売される端末は基本的にSIMロック解除された状態で販売されることになります。
 ただし割賦で端末を購入する際、支払いを継続できない可能性があると判断された人に端末を販売する場合に限り、総務省の確認を得てSIMロックをかけることが認められます。といいますか、一括で端末を購入しなければ、SIMロックははずせません。

 総務省はSIMロックをなくすことで、大手3キャリアのメインブランドの高額なプランから、格安SIM会社(MVNO)などが提供する低価格の料金プランへと乗り換える際のハードルを減らし、通信料の低価格競争が一層促進されることを狙っています。

 他方、SIMロックの原則禁止が必ずしも全ての消費者のメリットになるとは限りません。

 1つ目は、端末によって対応する周波数帯が違っているため、他社のSIMに変えることで端末本来の通信性能を発揮できなくなる可能性があることです。

 大手3キャリアは、iPhoneなど一部の端末を除いて、自社ネットワークで快適に利用できるよう、自社が免許を持つ周波数帯だけに対応させていることが多いです。
 それゆえ、他キャリアのSIMを挿入すると一部の周波数帯が対応しておらず、通信が利用できない場所が生じるといった問題が発生する場合があります。

 そうしたことから携帯各社は、販売する端末の対応周波数帯をWebサイトに掲載するなどの対応を取ってはいますが、消費者がそうした知識を必ずしも持っているわけではありません。
 結局、キャリアを乗り換えることにより、パフォーマンスが落ちてトラブルのもととなりやすいといわれます。

 2つ目、総務省がSIMロックを前提とした端末値引きそのものを規制してしまったことで、スマートフォンを安く買えなくなってしまったことです。

 SIMロックを前提とした値引きができなくなったことで、キャリアが端末値引きで在庫を一掃するといった措置を取れなくなりました。
 在庫リスクを恐れてキャリアが調達する端末が売れ筋のものに偏る傾向にあります。

 これまでの総務省でのSIMロックに関する議論を振り返ると、国内市場の公正競争の追求に熱心なあまり、規制がもたらすデメリットについてはあまり議論されていません。
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