本文へ移動

2023年バックナンバー

雑記帳

ICJの裁判官

 少し古い話ですが、国連総会と安全保障理事会は、令和2年11月12日、国際司法裁判所(ICJ)裁判官5人を選出する選挙を実施し、東京大名誉教授の岩沢雄司氏(66)が再選されました。

 新たな任期は2021年2月6日から9年間。総会では193カ国のうち最多の169カ国、安全保障理事会では15カ国全てが賛成票を投じました。
 岩沢判事は、小和田恒氏のICJ裁判官辞任に伴う補欠選挙で当選し、2021年2月までの小和田氏の残り任期を務めています。

 国際法と国際司法裁判所について説明します。

 日本は、欧米の砲艦外交の結果、江戸末期に締結された不平等条約の締結を余儀なくされました。欧米の領事裁判権や関税の自主権がないという条約です。
 日本は、大臣の報酬をこえる、いわゆる「お雇い外国人」と呼ばれる外国人を雇用し、法律制度の分野で雇用され、法律をつくり、近代国家建設を助けました。
 日本は成文法である大陸法を中心に継受することになりました。
 具体的には、プロイセン(後のドイツ)の憲法を参考に憲法を定め、プロイセンとやフランスなどの民法・刑法・商法・民事訴訟法・刑事訴訟法などの法律を参考に各法律を定めました。
 日本には、こんなに立派な法律があり、法律に基づいて裁判がなされているのだから、領事裁判権などは廃止した条約に改めましょうということですね。

 不平等条約が改正されたのは、日本が日清日露の各戦争に勝利したというのは、理由の1つにすぎず、日本は、近代的な憲法や法律を制定し、法の支配よる近代法治国家となり、それを欧米列強が認めたということです。

 みなさんは、大津事件をご存じでしょうか。
 明治24年(1991年)5月11日、日本を訪問中のロシア帝国皇太子・ニコライ(後のニコライ2世)が、大津市で警備にあたっていた警察官・津田三蔵に突然斬りつけられ負傷した暗殺未遂事件です。
 日本政府は、時の日本は、何とか欧米の植民地にならずに済んでいたものの、まだロシアに軍事的に対抗する力を持っていなかったため、賠償金や領土の割譲まで要求してくるのではないかと危惧されました。
 日本政府は、裁判所に対し、旧刑法116条に規定する天皇や皇族に対して危害を与えたものに適用すべき大逆罪によって死刑を類推適用するよう働きかけました。
 日本の皇族に対する謀殺未遂(殺人未遂)の法定刑には死刑がありましたが、外国の皇族に対する殺人未遂の法定刑は無期徒刑(無期懲役)しかなく、津田三蔵を死刑にできなかったからです。
 大審院院長(現在の最高裁判所長官)の児島惟謙は「法治国家として法は遵守されなければならない」とする立場から、「刑法に外国皇族に関する規定はない」として政府の圧力に反発しました。
 結局、津田三蔵は、大審院に移送の上、大審院にて、事件から16日後の明治24年5月27日に無期徒刑(無期懲役)の判決が言渡されて確定しました。
 なお、結果的には、ロシアによる賠償要求も武力報復も行われませんでした。
 この事件判決で司法の独立を達成したことにより、大日本帝国憲法の三権分立が諸外国に認識されました。

 日英平等を定めた日英通商航海条約が締結されたのは、明治27年7月16日、日清戦争勃発(明治27年8月1日)以前のことでした(但し、当時は、完全な平等条約ではありませんでした)。
 日清戦争で日本が勝利したから、イギリスとの不平等条約が改正されたというわけではありません。

 日本は、明治27年から翌明治28年にかけて同内容の条約をアメリカ、フランス、ドイツ、ロシア、オランダ、イタリアなど14カ国と調印しました。これにより、日本は法権のうえでは欧米列国と対等の関係に入りました。
 日本人が法を遵守すること、司法権が独立していたことは、遅くとも明治27年ころには確立していたことになります。

 なお、第二次世界大戦後、国連に国際司法裁判所が設置されました。
 国連の総会や常任理事会などから独立し、国際紛争について判決がなされます。
 裁判長を含め、15人の判事により構成されます。
 判事の任期は9年、再任することができます。
 慣行でアジアから3人、アフリカから3人、中南米から2人、東欧から2人、北米・西欧・その他から5人が選ばれています。また、この15人の中には国連安保理常任理事国5か国の判事が1人ずつ含まれることになっています。

 日本人の判事をみてみましょう。
 日本の国連加盟は昭和31年(1956年)12月18日のことですが、その前から加入していました。

 田中耕太郎(1961年-1970年)
 小田滋(1976年-2003年)
 小和田恆(2003年-2018年。2009年から2012年所長。2018年・中途退官)
 岩沢雄司(2018年-2021年。小和田恆判事辞任にともなう補欠選任)

 もちろん、国連安保理常任理事国5か国以外に、これだけ判事を輩出している国はいません。
 いかに、日本人の法律家・外交官が、信頼されているかがわかります。
TOPへ戻る