本文へ移動

2023年バックナンバー

雑記帳

請求権があっても裁判で認容判決がもらえない金銭債権

 「請求権があっても裁判しても認容判決がもらえない金銭債権」があるというのをご存じでしょうか。
 例えば、個人が自己破産するとします。
 免責決定が確定すれば、債権者は、訴訟を提起しても勝訴判決はもらえません。
 そのために、多重債務をかかえて返済できない人は、自己破産をします。
 この場合、債権者は、破産して免責を受けた人に対して、訴訟を提起しても、請求は棄却されます。

 請求が棄却される理由として、「債務消滅説」と「自然債務説」があります。
「債務消滅説」は、文字どおり、免責決定が確定すると、債権者の債権が消滅するとする説で、「自然債務説」は、免責決定が確定すると、請求権自体は残存するが、裁判所による保護が受けられなくなる債権になってしまうという説です。

 一見、どちらでも同じように思えます。
 しかし違います。

 例えば、配偶者の親から200万円借りていて、自己破産をして免責されるとします。
 配偶者の親は、請求訴訟を提起しても敗訴します。
 ただ、破産者が、破産して免責確定後に裕福になり、配偶者の親から借りた200万円を一括返済するとします。
「債務消滅説」をとると、債務自体がなくなっているのですから、200万円は贈与になってしまいます。
 90万円(200万円-110万円の基礎控除)に贈与税がかかってしまいます。
「自然債務説」をとると、債務自体は残っていいるのですから、200万円の返済は有効な返済で、贈与税はかかりません。

 裁判所は、免責された債権について「債務消滅説」を採用せず、「自然債務説」を採用しています。
 免責決定が確定すると、請求権自体は残存しますが、裁判所による保護が受けられなくなる債権になってしまうだけで、債権が消滅するわけではないのです。
 つまり、裁判上訴求する権能を失ったにすぎません。

 ただ、余りにややこしいので、一般の人には「負債はなくなった」「借金はチャラになった」と消滅説に従った説明をしますし、「お金ができたら、配偶者の親の分だけは返済したい」と言われた場合、債務は残っていますから、任意に返済することには何の問題もありません、その場合、他の債権者を無視しても問題ありませんと説明します。

 請求権があっても裁判において認容判決がもらえない金銭債権は、珍しいものでないことは、おわかりになりましたでしょう。
 請求権を実体的に消滅させることまでを意味するものではなく、当該請求権に基づいて裁判上訴求する権能を失わせるにとどまる、とも言われます。
TOPへ戻る