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2023年バックナンバー

雑記帳

ヨーロッパメーカーはなぜEVに走ったのか

 日本市場では、ヨーロッパからの電気自動車(EV)攻勢が活発に見えます。
 ヨーロッパ全体としては、EVへの関心が高まってきたのは比較的最近のことといえます。

 ヨーロッパは、クルマの環境対策として、自動車の二酸化炭素(CO2)排出量規制を中心に動いてきました。
 最初は、ディーゼルターボ・エンジンを使った排気量の削減と、出力の低下を補う過給器との組み合わせを主体としつつ、ハイブリッドによるさらなる燃費の向上でした。
 ところが、平成27年にフォルクスワーゲンが、アメリカ市場でディーゼル車の排出ガス規制を偽装していたことが明らかにされました。
 公的機関での測定では規制値を満たすものの、実走行で急加速などした際に基準を上回る有害物質が排出され、それによって力強い加速を得られるようにした制御が発覚したのです。
 その影響は、VW車だけでなく、アウディなどVWグループ内に広く影響を及ぼしました。

 ヨーロッパの自動車メーカーの技術は、プリウスに代表されるハイブリッド車に到底かないません。ヨーロッパの自動車が、トヨタ他の日本車に席巻される可能性が出てきました。他の自動車メーカーは、トヨタのハイブリッド車に追いつくだけの技術力がありません。

 こうして、ヨーロッパの自動車メーカーは、ディーゼルに代わるものとしてEVを選ばざるを得なくなりました。
 当時はまだ、動力源となるリチウムイオン・バッテリーの原価は高いとされ、量産さえ十分な見通しが立たない状況でしたが、ヨーロッパ各自動車メーカーは、やむを得ずEVへ舵をりました。
 そして、米国テスラが打ち出した「ギガファクトリー」と名付けるような大規模なバッテリー工場の建設に、各自動車メーカーやバッテリーメーカーなどが力を注ぐようになっていきます。

 各国の動きに並行し、EUも2035年にはハイブリッド車を含むエンジン車の販売を禁じることにしました。
 この措置については、2022年、一部についてはエンジン車も認める方針転換をしたとの報道がありました。だが、それにはe-fuelを前提とする条件が付きます。e-fuelは、量産技術さえまだ確立しておらず、燃料価格も定かではありません。
 金に糸目を付けない超高級車ユーザーに、いくらかかるかわからないe-fuel利用によって、エンジン車を利用し続けられるという特権を与えたと解されています。

 こうして、ヨーロッパの自動車メーカーはEVへ舵を切り、先行する米国テスラや中国メーカーと雌雄を決する覚悟となりました。

 EVは環境に優しいのでしょうか。
 EVが環境にいいと言われる最大の理由は「排気ガスを出さない」ことです。
 EVに充電する電気を作る際にも二酸化炭素は発生しており、特に火力発電では石炭や石油を燃やすため、大量の二酸化炭素が排出されます。
 また、自動車は製造時に電気を使います。電気は火力発電で作られることが多いため、間接的に二酸化炭素を排出しているのです。鉄などの鉱石の採掘から、輸送、精錬、製品への加工まで、製造工程は複雑であり評価が難しいですが、一般的にはEVの方が二酸化炭素排出量が多いと言われています。
 EVに使われるリチウムイオン電池は5年ほどで寿命を迎えますが、コバルトやニッケル、マンガンなど、土壌や水を汚染する材料が多く使われているため、そのまま廃棄することは環境汚染に直結します。
 特にEVへの移行が早い中国では、廃棄されるバッテリーの数は急速に増えつつあり、環境汚染は既に深刻化しているといえるでしょう。
 電池の廃棄による環境汚染や、製造コストを抑えるには電池のリサイクルやリユースも重要なポイントとなりますが、現状ではリサイクルが適切に行われているとは言えない状況です。
 ガソリン車は、自動車リサイクル法によって95%以上がリサイクルされていますが、EVはリサイクルの枠組みや技術が整っておらず、ほとんどのバッテリーが廃棄されています。

 これらの問題点に目をつむって、ヨーロッパ(EU)は、2035年までに自動車の二酸化炭素排出量を100%削減すると決定し、実質的にガソリン車が廃止となる流れが生じました。
 普通のガソリン車だけでなく、ハイブリッド車などエンジンのある自動車は全て販売できなくなるため、自動車業界はEVへの舵を切らざるを得なくなったのです。

 安価な中国製EVが、大量にヨーロッパに輸入されるようになりました。
 それに呼応して、中国製EVのヨーロッパ市場向け輸出が規制される可能性が出てきました。
 EU(欧州連合)の政策執行機関である欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、令和5年9月13日、欧州議会での施政方針演説のなかで、中国製EVへの補助金に関する調査に着手すると明らかにしました。
 ただ、補助金はEUで製造されるEVについても同じことがいえます。

 ヨーロッパは、ハイブリッドで日本車に勝てないとしてEVに舵をきり、中国製のEVが大量に輸入されるようになると、補助金を相殺するための関税をかけようとしています。

 本当に、環境保護のためでしょうか。
 ヨーロッパの自動車産業を護るためだけに、いろいろ言い訳しているに過ぎないとの意見もあります。
 ヨーロッパではEVの普及が進んでいるが、これはあくまで官主導の流れであり、当の自動車業界は必ずしも賛成していません。

 VWは令和5年10月に、ドイツ東部のザクセン州にある2つの工場で、約2週間、EVを減産すると発表し、うちツウィッカウ市の工場では、有期雇用の従業員の整理を進めるなど、「需要の弱さ」を理由にEVの生産体制をかなり見直しました。
 ドイツのみならず、EU各国の政府は、これまでEVの購入に際して、補助金を給付したり、税制優遇を図ったりしていましたが、しかしこうしたインセンティブが、財政再建の流れを受けて段階的に打ち切られたため、需要が圧迫されました。
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