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2013年バックナンバー

法律事務所への動産執行

ある人から、大阪弁護士会会員が、借金を返済できなかったため、事務所の応接セット、椅子などの強制執行を受けたという話を聞きました。

 仮差押えでは、「保全の必要」という観点から、法律事務所の什器備品は執行されるということは考えられませんから、判決があったか、強制執行認諾文言つきの公正証書があったのでしょう。

 事情はよくわかりませんが、弁護士さんが借入れたお金を返済できなかったために、金融機関(おそらく銀行などではなくノンバンクと思われます)が、「これみよがし」に強制執行したのでしょう。
 自宅などの不動産は、抵当権が多額などの理由で強制執行する意味はなかったのでしょう。

 民事執行法131条には以下のとおり定められています。
「次に掲げる動産は、差し押さえてはならない。
1 債務者等の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具
2 債務者等の一月間の生活に必要な食料及び燃料
3 標準的な世帯の二月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭
4 主として自己の労力により農業を営む者の農業に欠くことができない器具、肥料、労役の用に供する家畜及びその飼料並びに次の収穫まで農業を続行するために欠くことができない種子その他これに類する農産物
5 主として自己の労力により漁業を営む者の水産物の採捕又は養殖に欠くことができない漁網その他の漁具、えさ及び稚魚その他これに類する水産物
6 技術者、職人、労務者その他の主として自己の知的又は肉体的な労働により職業又は営業に従事する者(前二号に規定する者を除く)のその業務に欠くことができない器具その他の物(商品を除く)
7 実印その他の印で職業又は生活に欠くことができないもの
8 仏像、位牌その他礼拝又は祭祀に直接供するため欠くことができない物
9 債務者に必要な系譜、日記、商業帳簿及びこれらに類する書類
10 債務者又はその親族が受けた勲章その他の名誉を表章する物
11 債務者等の学校その他の教育施設における学習に必要な書類及び器具
12  発明又は著作に係る物で、まだ公表していないもの
13 債務者等に必要な義手、義足その他の身体の補足に供する物
14 建物その他の工作物について、災害の防止又は保安のため法令の規定により設備しなければならない消防用の機械又は器具、避難器具その他の備品」

 一般の人は「動産」の「強制執行をする」というと、クーラーやテレビ、タンスなどに、通称「赤紙」を貼られるというイメージがあるでしょうが、民事執行法131条で、普通の家庭の動産執行ということは「まず」ありえません。
 執行官は、全く来ないかというとそうでもありませんが、ざっと、あたりをながめ「66万円以上の現金はありますか」と聞いて、「ない」と答えると、そのまま帰ります。ですから、業者は、最初から割の合わない執行はしないのが普通です。
 民事執行法施行令で3号の「標準的な世帯の二月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭」は66万円です。
 商売をしていない一般の方が、動産執行で「何か持っていかれる」ということは考えがたいです。

 しかし、法律事務所には、机椅子などの什器備品の強制執行を妨げる理由はありません。
 もっとも、コンピュータやファクシミリ複合機は、リース物件でなくても、6号に該当されると判断されるでしょう。コンピュータなどは「ないと仕事が出来ない」「秘密のかたまり」ですから、執行されることはないでしょう。

 弁護士会会員が、預り金を横領したというニュースは、最近珍しくなくなりました。
 法律事務所が、動産の強制執行を受けたことは、ニュースにもなりません。
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