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2013年バックナンバー

子供の取違え

60年前に別の新生児と取違えられ、貧困を強いられたなどとして、東京都の男性(60歳)らが病院を運営する社会福祉法人に損害賠償を求めた訴訟の判決が、平成25年11月26日に東京地方裁判所で言渡されました。

 男性は、昭和28年、東京都墨田区の産院で出生し、この病院で13分後に生まれた子と取り違えられ、別の夫婦の実子として育てられました。
 男性の戸籍上の父親は55年に死去し、生活保護を受け、兄2人とともに母親に女手一つで育てられながら中学を卒業し、町工場に就職しました。
 働きながら定時制の工業高校を卒業し、今はトラック運転手をしています。

 一方、取り違えられた方の新生児は、裕福な家庭の子として育てられ、その後、大学まで進学しているそうです。
 その男性も60歳になりますね。

 昭和28年くらいのことですから、ありがちかも知れません。

 大都会では、病院で出産をしていたのでしょうね。

 私は、和歌山市で昭和30年生まれていますが、自宅で産婆さんに取上げてもらっていますから、取違えの心配はありません。

 昭和30年の和歌山市の人口は約22万人、今でも、鳥取市、山口市、松江市、甲府市は昭和30年当時の和歌山市におよびません。

 また、私は、両親とも公務員で、購入ずみの持家が既にありましたから、私の家が貧乏で、病院入院費用を惜しんだわけではありません。


 話を戻して、事の発端は、取違えられた方の男性からわかりました。
 取違えられた男性は、平成21年に容姿などに違和感を覚えた弟3人が、DNA鑑定を申請し、血縁関係がないことが分かりました。
 また、産院の台帳を証拠保全するなどして実の兄を捜し出し、平成24年に鑑定で証明されたそうです。

 相続でもめたのでしょうか。
 それなら「やぶ蛇」かもしれません。

 平成18年7月7日・最高裁判所判決(最高裁判所民事判例集60巻6号2307頁
家庭裁判月報59巻1号92頁)の要旨は以下のとおりです。

「 一 戸籍上の両親以外の第三者である丁が甲乙夫婦とその戸籍上の子である丙との間の実親子関係が存在しないことの確認を求めている場合において、甲乙夫婦と丙との間に実の親子と同様の生活の実体があった期間の長さ、判決をもって実親子関係の不存在を確定することにより丙及びその関係者の被る精神的苦痛、経済的不利益、改めて養子縁組の届出をすることにより丙が甲乙夫婦の嫡出子としての身分を取得する可能性の有無、丁が実親子関係の不存在確認請求をするに至った経緯及び請求をする動機、目的、実親子関係が存在しないことが確定されないとした場合に丁以外に著しい不利益を受ける者の有無等の諸般の事情を考慮し、実親子関係の不存在を確定することが著しく不当な結果をもたらすものといえるときには、当該確認請求は権利の濫用に当たり許されないものというべきである。
 二 虚偽の出生届により戸籍上はAB夫婦の嫡出子と記載されているYに対して、ABの長女であるXが、AB夫婦とYとの間の実親子関係不存在確認の訴えを提起した事案の上告審において、本件上告人Yは、Bの死亡まで約55年間にわたりAB夫婦との間で実の親子と同様の生活の実態があり、被上告人Xは、ABの実子Cの死亡によりその相続が問題となるまで、YがAB夫婦の実子であることを否定したことはなかったこと、判決をもってYとAB夫婦の実親子関係の不存在が確定されるならば、Yが受ける精神的苦痛は軽視しえないものであることが予想され、経済的不利益も軽視できないものである可能性が高いこと、AB夫婦はYとの間で嫡出子としての関係を維持したいと望んでいたことが推認されるのに、AB夫婦が死亡した現時点において、YがAB夫婦と養子縁組をすることは不可能であること、XがYとAB夫婦との間の実親子関係を否定しようとした動機に合理的な事情は認められないなどの本件事情の下で、前記の事情を十分検討することなく、Xにおいて前記親子関係の存在しないことの確認を求めることが権利の濫用に当たらないとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違反があるとされた事例」

 取違えられた男性に対し、兄弟が、親子関係不存在確認の訴訟を提起しても難しいでしょうね。
 また、本当に血のつながっている男性も相続できそうです。

 ただ「弟3名が、産院の台帳を証拠保全するなどして実の兄を捜し出し、平成24年に鑑定で証明された」と記載されています。
 相続人を減らそうというのなら、わざわざ、産院の台帳を証拠保全して、相続人を増やすということはしないと思います。

 わかりませんね。

 もっとも、訴訟記録は公開、裁判所名と被告がわかっていますから特定可能ということで、興味があれば、誰でも閲覧できそうです。

 「どの家に生まれるか」ということは、人の一生を左右しますね。
 「高等教育を受ける機会を失い、極めて甚大な精神的苦痛を受けた」と指摘し「長年、肉親との交流を一切持つことができなかった。両親はすでに死亡しており、無念さは察して余りある」としたのは当然でしょう。

 また、60年前の事案ですから時効にかかっていそうな気がしますが、そうはならなかったようです。
 いずれにしても、時効の援用が権利の濫用になりそうな事案ではあります。

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