本文へ移動

司法 バックナンバー 3/3

弁護士大増員時代

弁護士の数が増えるという話はお聞きになったことはありませんか。

 具体的には、私のころは、1年に、裁判官・検察官・弁護士になる数=司法修習生=の数は500名でした。
 あと数年もすれば、3000名になる予定です。

 競争が激しくなるから、価格も下がる=いいこと=と単純に思っている方はおられませんか?
 必ずしも、そうではありません。
 弁護士の質が下がり、一般の人にとって、「はずれ」の弁護士に依頼してしまう危険が大きくなるのです。

 まず、弁護士は「資格を得たからすぐ開業」というわけではなく、他の弁護士に雇ってもらう「イソ弁」(居候弁護士)になるのが普通でした。
 給料をもらい、事務所の仕事をしながら、自分の顧客も開拓し、数年後に、独立、あるいは、共同経営者(パートナー)となるというプロセスを経て一人前になっていたのです。

 ところが、弁護士がふえすぎたため、平成19年には「イソ弁」になれない、つまり就職ができない人が400人程度でて、いきなり独立せざるをえない、あるいは、給料をもらわず、他の弁護士の軒先(机)を借りるだけの「ノキ弁」が生じるという事態が生じるようです。

 「イソ弁」は、給料をもらいながら、雇い主である弁護士の仕事ぶりを見ながら、また、教えてもらいながら仕事をおぼえて(OJT)、一人前の仕事ができるようになっていました。
 他に「報酬の相場」「報酬の上手なもらい方」を勉強するというのも「イソ弁」の大切な仕事です。大学や司法研修所では、誰も教えてくれません。
 案外見逃されがちなのですが、「弁護士としてやっていいことと悪いこと」を勉強するのも「イソ弁」の大切な仕事です。弁護士は、職業倫理がきびしく、これに反すると懲戒処分を受けますから「おかしなことはしない」というのが当たり前、依頼者も「おかしなことはされる心配がない」から「安心して」弁護士に依頼できていたのです。「イソ弁」をしていれば、通常「して良いことと悪いこと」の区別は自然と身についていました。

 いきなり独立する弁護士はどうでしょう。
 OJTを経ていないのですから、仕事ができるかどうかも心配です。
 報酬も、常識的なもらい方ではなく、法外な金額を請求するということも心配です。
 また、弁護士倫理が身についていなければ、無茶をして、依頼者や相手方に迷惑をかける恐れも大きいです。

 弁護士の増員は、基本的に、圧力団体である大企業の意向に添ったものです。
 確かに、弁護士の数は比較的少なかったため、「敷居が高い」「料金が高い」ということがあったのは事実です。
 しかし、隣接士業(司法書士・行政書士など)が、先進諸外国に比べ圧倒的に多い(むしろ、司法書士・行政書士などの仕事を弁護士がしている国があります)ということを考えれば、1年に3000人は明らかに過剰です。

 大企業は、有能な弁護士を選べます。
 紛争がしょっちゅうあるのですから、事件処理の能力があると判断した弁護士に依頼を続け、能力がないと判断した弁護士には次から事件を依頼しなければいいだけです。1件くらい「はずれ」をひいたからといって、痛くもかゆくもありません。

 逆に、一生に一度、弁護士に依頼するかどうか分からない一般の方は大変です。
 弁護士が有能であるかどうか分からず、「はずれ」を引いてしまう可能性が、はるかに大きくなるからです。
 「仕事はできない」「報酬は高い」「無茶なことをする」という弁護士に依頼せざるを得ない一般の人がふえるのは気の毒な気がします。

TOPへ戻る