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司法 バックナンバー 3/3

法律家と外国語

日本の法律家の外国語能力の程度はどれくらいでしょうか。

 まず、裁判所法74条には、以下のとおり定められています。
 「裁判所では、日本語を用いる」
 また、民事訴訟規則138条には、以下のとおり定められています。
「 外国語で作成された文書を提出して書証の申出をするときは、取調べを求める部分についてその文書の訳文を添付しなければならない。この場合において、前条(書証の申出等)第2項の規定による直送をするときは、同時に、その訳文についても直送をしなければならない。
   相手方は、前項の訳文の正確性について意見があるときは、意見を記載した書面を裁判所に提出しなければならない。」

 ということで、裁判官・検察官・弁護士は、いずれも、全く外国語ができなくても訴訟提起や判決をする上には全く差し支えありません。
 扱うのは日本の法律ですから、外国語の文献を読む必要も通常ありません。


 もちろん、渉外事件を扱う弁護士は、外国語の読み書きなどができなければ仕事になりません。
 当然「読め」「聞け」「書け」「話せる」はずです。
 なお、このうち、文書を書く以外は、多少稚拙でも問題ないのですが、文法や言葉遣いがおかしい文書を書くと、自分の依頼者から「疑問視され」、相手にも「なめられ」ますから、特に急がない限り、提出前にネイティブの方に添削してもらう弁護士さんが多いようです。

 渉外事件を扱っていなくとも、留学経験のある方は、少なくとも留学当時は、「読め」「聞け」「書け」「話せる」ことができたのでしょうが、使わなければ「錆びつき」ます。
 特に、「読む」ことはできても、「聞き取り」と「会話」と「文書作成」は、使わなければ、能力がかなり落ちていることは間違いないでしょう。


 それ以外の裁判官・検察官・弁護士は、どうでしょう。
 少なくとも、中学で3年、高校で3年、大学で2年英語を習っているはずですし、大学で2年「第2外国語」を習っているはずです。
 でも、通常は、英語ですら、「読み」「聞き」「書き」「話す」は、できない方が大半のように思います。弁護士仲間で外国旅行をすることがありますが、まず、英語すらできない方が多いように思います。

 日本は島国ですから、日本で外国語を使用する機会がほとんどなく、必要な文献・図書は、ほとんど誰かが翻訳していていますから、日本で暮らす限り、日本語だけで十分です。
 逆に、大学レベルで自国語だけで足りること(大学レベルになると、自国語では複雑な文章構成が不能、あるいは、抽象的概念を示す単語すらない言語もあります。日本でも、明治初期「東京大学」の初期の教官は、お雇い外国人たちであったので、教科書も原書、授業も外国語という状態だったそうです)、また、過去に植民地支配を受けたことがないこと(植民地支配を受けていれば、いやでも旧宗主国の言葉の影響が残っています)を、日本人として誇りに思ってもよいかもしれません。


 とはいっても、英語で書かれた、簡単なビジネス文書や発注書なども読めないというのでは、依頼者に「なめられる」可能性がありますし、裁判の証拠として提出するならともかく、文書すべてを翻訳してもらわなければ打合わせができないというのでは、特に急ぐときに困ると思います。
 また、「アルファベット」「アレルギー」の弁護士さんの中には、定型的なカルテの英単語も読めない方がおられます。保険会社の顧問弁護士なら、会社が翻訳をしてくれた分をみればいいわけですが、保険金を請求する素人側なら、訴訟ならともかく、示談交渉でも翻訳してもらわなければならないということになれば、面倒でしょうね。

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