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金融・経済 バックナンバー

銀行の広告への疑問

ある銀行のパンフレットに、以下の広告がありました。
 阪急電車甲陽線にも大きく広告が出ています。

「生命保険文化センター「生活保障に関する意識調査」/平成16年」 によれば、アンケートの結果、ゆとりある老後生活を送るための費用として、最低日常生活費以外に必要と考える金額は月額平均37万9000円となっています。

 また、 「平成19年度」「厚生年金のケース」 によれば、夫婦2人分の基礎年金を含む標準的な年金額は、月額23万2592円となっています。アンケートによれば、生活可能な月額収入は、一件、の24.2万で年金でまかなえるようになっています。

 くだんの広告は、その差額の196万円を、手持ちの2500万円を支出するとすれば、何年で「底をつく」のかと問いかけています。ご丁寧に、縦軸に財産額、横軸に経過年数を記載した、右肩下がりのグラフつきです。
 0%の運用だとすると14年余り、3%の運用だとすると18年余り、5%の運用だとすると25年余りとなります。

 0%の運用の場合は、単純に、2500万円を196万円で割れば計算できます。
 3%、5%は、2500万円のローンを元利金等で返済すれば、何回で完済できるかを流用すればよいことになります。
 私のコンピュータには、ローン計算に関するエクセルを用いた以下の式が入っています。

返済回数=LN(毎月支払額/(毎月支払額-借入金*月利率))/LN(1+月利率)

 これをあてはめてみますと、以下のとおりになりました。
        取崩額 年利率 月利率 退職金 回数
0%で運用 146,000 0 0 25,000,000 171 14.25年
3%で運用 146,000 0.03 0.0025 25,000,000 224 18.65年
5%で運用 146,000 0.05 0.00417 25,000,000 301 25.05年

 わずかの誤差はありますが、専門家の方が正しいのでしょう。私の計算も「当たらずといえども遠からず」と思います。


 その広告は「国内株式、国内債券、外国株式、外国債券に投資していれば、国内預金よりパフォーマンスがいいですよ」という内容です。
 資料には、税金と「手数料」が抜けています。
 なお、過去の実績ということになりますが、プラザ合意のころまで戻った円安ですから、外国債券、外国株式についてはパフォーマンスがいいのは決まり切ったことです。もちろん、これから、どうなるかは「誰にもわかりません」。預金金利の方が有利かも知れません。
 また、国内株式、国内債券は、さほどあがっていないことはご存じのとおりです。
 「昨日またかくてありけり、明日もまたかくてありなん」は通用しないかもしれません。
 
 さて、「将来」は未確定なのですが、運用がうまくいけばいいですが、「円高」などで外国株式、債券で損をすることもありますし、国内株式、国内債券で損をすることがあります。
        取崩額 年利率 月利率 退職金 回数 年数
0%で運用 146,000  0 0 25,000,000 171 14.25年
3%で運用 146,000 0.03 0.0025 25,000,000 224 18.65年
5%で運用 146,000 0.05 0.00417 25,000,000 301 25.05年
-3%で運用 146,000 -0.03 -0.0025 25,000,000 142 11.86年
-5%で運用 146,000 -0.05 -0.00417 25,000,000 129 10.75年

 何もしなければ、14年余りもっていたはずが、5%ずつ損をすれば10年余りで「底をつく」ことになります。
 これは、税金のほか、ばか高い「手数料」が入っていません。
 また、預金にしても、ここ数年はダメですが、バブルのころ8%の定額貯金(金額に制限あり)、8%のワイド(制限なし)を利用しいていれば特に、危険なしに、ここ30年の物価上昇率を上回るパフォーマンスがあったのかもしりません。ノーリスクです。


 「金融商品取引法と投資信託」 のコラムで書いたように、信託手数料のうち上限をとれば、申込手数料が3.15%、信託報酬は毎年1.89%です

 銀行の手数料込みとして、申込手数料が3.15%、信託報酬は毎年1.89%として、計算すると以下のとおりとなります。

        取崩額 年利率 月利率 退職金 回数 年数
0%で運用 146,000 -0.0189 -0.001575 24,212,500 147 12.27年
3%で運用 146,000 0.0111 0.000925 24,212,500 180 15.01年
5%で運用 146,000 0.0311 0.0025917 24,212,500 217 18.09年

-3%で運用 146,000 -0.0489 -0.004075 24,212,500 126 10.54年

-5%で運用 146,000 -0.0589 -0.0049083 24,212,500 121 10.09年

 元金が3.15%減って、2500万円のはずの元金が、2421万2500円 に減ってしまいます。また、毎年1.89%の信託報酬を支払えば、それだけ年利率が下がります。
 信託のパフォーマンスが、±0ならば、何もしなければ14年余り持ったはずが、12年余りで「底をつく」ことになってしまいます。3%で運用できたとしても、定期預金にも何もしない14年余りがちょうど15年にしかならず、実質預金利息を計算に入れれば不利でしょう。5%で運用できたとしても、定期預金にも何もしない14年余りがちょうど18年になるだけです。25年余りにものびません。
 信託のパフォーマンスがマイナスなら悲惨ですね。10年余りで「底をつく」ことになってしまいます。


 もちろん、銀行も「商売」ですから、自分のもうけが少ない「預金」よりも、断然利益の大きい「投資信託」が有利である、そちらへ誘導しようということはよくわかりますが、利回りを大きく左右する手数料を無視し、人の不安をあおるということはフェアではないように思います。


 個人的には、「座して死を待つよりは戦争だ」式の「危険を冒そう」という発想は好きではありません。
 自分自身の1度きりの生活です。また、退職金受領を前提とすると、若くないことになりますから、失敗すれば、取り返しがつきません。
 失敗すれば、年金のみに頼った生活を送ることを余儀なくされます。
 若いころのリスクテイクは、借金に頼らない限り、仮に失敗しても、一生懸命働けば、回復は可能でしょう。
 歳をとっているからこそ、堅実な運用が求められるのではないでしょうか。
引退して、子供が独立してから、月額37万円もの支出は必要ないように思います。
 銀行を不必要にもうけさせるために、自分自身が過度のリスクをとる必要もないと思いますがいかがでしょうか。 


 なお、私は、職業柄、ハイリスク運用はお勧めしません。
 「失敗して」法律事務所に依頼されるかが多いという実感があるかも知れません。うまくいった方は、法律事務所ではなく、公認会計士・税理士さんのところに行かれるでしょうから。
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