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金融・経済 バックナンバー

ノックインでノックアウト

投資信託には「リスク限定型投資信託」と呼ばれる商品があります。

「リスク限定型投資信託」とは、「元本割れリスクを『ファンド設定時に約束した範囲内』に抑える」という仕組の投資信託のことを指します。

 通常、リスク限定型投資信託の多くは「設定から1年以内に日経平均株価が「極端に」(2割から3割程度)以上下がること(ノックイン)がなければ、元本+配当金(3%ないし4%程度)を1年後にお返しします」という内容です。
 購入者は、ノックイン「さえ」起きなければ、年3%ないし4%の運用利回りが得られることになります。

 この投資信託の問題点は、大きく分けて、3つあります。
 1)リターンが限定されてしまいます。
   普通の投資信託や日経平均連動投資信託(ETF)を購入していれば、大きく株価が上がった場合、リターンもそれだけ大きなものになります。
   しかし、リスク限定型投資信託は、いくら株価が上昇しても、年3%ないし4%の運用利回りのみしか得られません。
 2) リスクがヘッジされるのは、当初約束された期間だけです。
   つまり、期間内にノックインした時、損は大きくなる可能性があります。
   リスク限定型投資信託は「設定から当初約束した期日(設定から1年程度)」までは、リスク限定の条件で運用されますが、一度でもノックイン(当初約束していた水準を日経平均が下回る)すると、原則的には時価で運用が継続されます。
   満期償還日(5年以上のことが多いです)までに、株価が回復しなければ大幅な元本割れもありえます。
 3)途中解約ができません
   当たり前の話ですが、リスク限定型投資信託は、リスク限定運用期間中(設定から1年程度)は、途中解約できない設定となっています。
   途中で日経平均が下落して「ノックインする前に換金しよう」と考えても、途中解約ができないので、売逃げすることができません。

 サブプライム問題などで、日経平均が暴落しました。
 日経平均が1万6000円程度のときに発行された投資信託で、25%減がノックイン価格なら、日経平均が25%下回わった1万2000円がノックイン価格ということになります。
 
 どうでしょうか。サブプライム問題発覚前は、日経平均は、1万8000円、1万90000円、いや2万円まで行くといわれていました。
 当時、誰が、日経平均が1万2000円を下回るということを予想し得たでしょうか。

 お気の毒ですが、1年後に、元金+年3%ないし4%戻ってくると思って購入した人は、5年以上の満期償還日まで待たされて(設定期間以降なら、売却や途中解約できますが、大損ですよね)、それまで日経平均が戻らなければ、元本割れということになってしまいます。
 なお、日経平均が1万2000円がノックイン価格であるという投資信託は、結構な数に上っているそうです。
 損を受けている方も多いと思います。
 普通、投資家といわれる人は、こんなリターンの期待できない商品は購入しないでしょうから、損を受けている人は「有利な定期預金」のつもりで購入した方が多いのではないでしょうか。

 なお、「リスク限定型投資信託」と同じような仕組みのものに、「日経平均ノックイン債」があります。
 これも、一定期間中の日経平均株価の終値によって、償還価格が、日経平均株価の終値に応じて、額面満額であるかどうか決定される債券をいいます。
 一定期間中に、日経平均株価の終値が基準価格を一度も下回らなかった場合には額面満額が償還される事になりますが、一度でも下回った場合は(ノックイン価格を下回ると)日経平均株価に応じて一定の計算式によって、償還額が大幅に減額されて償還されます。
 やはり、日経平均が1万2000円がノックイン価格であるという債券は、結構な数に上っているそうです。


 なお、これらの高い利回りの「からくり」はデリバティブを組み合わせた商品であることです。
 なんのことはない、「リスク限定型投資信託」「日経平均ノックイン債」購入者は、日経平均のプットオプションを売って、プットオプションのオプション料が金利に上乗せされるという仕組みだったということです。

 ローリスク・ハイリターン商品などありません。
 投資信託については、リスクなくしては、リターンは望めません。「リスク限定型」などというネーミングにつられる前に、その商品の隠されたリスクについて冷静に見極めることが大切だったという、よい教訓になるのではないでしょうか。

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